「副産物産店」という、わかるような、わからないような、店?活動?どうやらアーティストたちが作品を制作する過程で出てくる廃材に着目。回収した廃材に新しい息吹を吹き込み、ゴミ同然、いやただのゴミに新たな価値を見いだす活動をする2人組。これだけの前情報だとまだよくわからない。でもとにかく面白そう。京都はたくさんのアーティストや彼らのスタジオ、そして多数の芸術大学が集まる場所。確かにこの街ならアーティストたちが産み落とす廃材をたくさん見つけることができそうだ。副産物産店を立ち上げ活動するメンバーのお一人、矢津吉隆さんにお話を伺いに京都芸術大学のアトリエにお邪魔してきました。
山田毅(只本屋)と矢津吉隆(kumagusuku)の二人が考案、物の価値やその可能性について考えるプロジェクト。アーティストから出る魅力的な廃材を副産物と呼び、回収、販売。
矢津:そうです。ここは私立の方なんです。ちょっとややこしいんですが、僕はもうひとつの京都市立芸術大学を卒業しています。いわゆる公立の方です。その大学は西京区という山側にあったんですよ。亀岡の手前です。その母校が昨年京都駅のすぐ東側の場所へ移転して、その建築を設計するチームに僕と山田も入っていたんです。新しい京都市立芸大を一緒に考える、というチームに入っていてこんな京都市立芸大だったら面白いんじゃない?みたいな話をきっかけに建築家と話を進めていきました。郊外にあった大学が街の真ん中に近い場所へ移ったとき、街との関係が重要だし、その場所に開かれた京都市立芸大にしていこう、という話になった時にゴミ捨て場の話になったんです。
矢津:京都市立芸大にはいろいろな学科があるので、作品制作ではさまざまな資材が使われるんですよ。制作過程や制作後に出たゴミが集積場所に捨てられるんです。大きなコンテナがあってその中を覗くと面白そうな物がいろいろと捨てられているんです。学生たちも何かを制作するとき、資材を買いにホームセンターへ行く前に、まずゴミ捨て場に使えそうなものがないか漁りに行くんです。使えそうなものがあればそのゴミも資材となる。ゴミ捨て場を巡る生態系みたいなものが京都市立芸大にはあるんです。チームで話しているとき、ゴミ捨て場を新しい街に開いていくような面白い取り組みができないか?という案が出たんです。その案は古材循環センターという名前で大学から出た古材を市民の人たちに販売。その古材を使ってワークショップをおこなったりする。長野県の諏訪湖にあるリビルディングセンターみたいなイメージが強かったんです。そんなアイデアを設計のプロポーザルに加えたらプロジェクトとして話が通ったんです。大学や京都市と話を始めたのですが、それは大学が求めていた物ではなくて僕たちが勝手にやりたいと提案していたものなので、誰がやるの?みたいな話になってしまって。でも面白い話だし、ちゃんとできる物を示していけば何か変わるのではないか?と思ってまず始めたのが副産物産店なんです。
矢津:そうですね、僕と山田でそういう場作りだったり、作品を作るだけではなくて人との関係性をアート化するような仕事をしていたので。2017年にユニットとしてスタートしました。スピンオフみたいな感じでした。展覧会に出展したり、仕組みを用意して雑貨のような商品を作って販売したりして、物の価値をもう一度考えるということをしてまいす。捨てられている物の中には変わっていてすごく面白い物がたくさんあるんです。それを集めることで物の循環だったりサステナブルを考えることもそうですし、その素材の面白さをきっかけにアートや工芸の面白さに興味を持ってもらえたら嬉しいなと思って始めたんです。
矢津:個人のアトリエや大学のゴミ箱、校内でも個々のアトリエスペースに直接もらいに行ったり、卒業した若手から、バリバリに活動しているアーティストのアトリエにもお邪魔させてもらって貰ってくることもあります。制作しているすぐ横にあるゴミ袋を漁ったり。人によってその副産物が違うんです。いわゆるゴミっぽく見えてもそれはその人にとって大切な物だったり、作品に見えてもゴミだから持って行っていいよ、と言う人もいます。ゴミかどうかというのが人の定義によって違うのが面白い。
矢津:やっぱり魅力を感じるゴミは人の手が加わっているかどうかですね。素材がそのままの物より、一度手が加わっていて実験的にこんなことやってみたとか、結果的にこうなっちゃいました、みたいな痕跡のあるゴミはたまりませんね。これまで見たことないテクスチャーや質感だったり、そうやって輝いているゴミを見ると最初に拾いたくなります。作家が持っている作家性や培われてきた技法みたいなところが見えちゃっている、というのが副産物の一番の魅力ですね。そこから派生して、これまだ使えるとか、道具としてもったいないみたいなものがいっぱい出てくるので。アーティストは使えないけれど、デザイナーだったら使えそうだとか、分野を変えると使える物ってあるので面白いですね。
矢津:利益的なことでいうと、販売だけではなかなか難しいですね。学生と蚤の市に出展したりしていますが、それだけでは大変なので、行政や企業と一緒にクライアントワークをやりながらこのプロジェクトができているという感じです。僕らが副産物を加工して作る商品を副産加工品と呼んでいて、水産加工品のような感じです。少ない手数で作れる物もありますし、それなりに手間をかけないといけない物もあるんですけれど、なるべく手をかけずに商品化できるような方法を考えたいと思っています。それと副産物の詰め合わせもあります。
矢津:そうなんです。これは本当に詰め合わせるだけ。単純にきれいに見えるように詰め合わせてみるだけ。詰め合わせは一番最初に考えたアイデアなんです。どうしても単体では売れないとか、そこまで魅力的でない物をコラージュみたいに組み合わせていくと、その魅力が見えてくるんです。これ一つ800円でイベントに出品していて。詰め合わせただけのゴミが売れるってすごいことだなって。普通に詰め合わせた袋を開ければバラバラにできるし。バラした物を素材にしてなにか作ってもいいかなと。なかなかそこまでやる人はいないので、そのまま飾るというのが基本的なところなんです。なので詰め合わせるセンスが大切なんですよね。
矢津:そうなんですよ。この展開で自動販売機で販売できるようにしてみるとか、詰め合わせの仕方を変える。タバコの箱のような物に入れてみたり。ガチャガチャのカプセルに入れてみるとか、そういうことをやっています。
矢津:いろいろな人が買っていきます。京都のお土産として買っていく人もいます。ちょっと変わったお土産として。アートの展覧会だと作品をただ眺めるだけですが、僕たちの展覧会は実際に買って持って帰れるんです。この展覧会はいろいろなところでやっていて、沖縄では琉球ガラスの作家さんや、やちむんの器を作っている作家さん、また漆を使っている人のところへお邪魔して副産物をもらってくる。副産物は行く場所でぜんぜん変わるんですよ。コロナで現地へ足を運べないときは箱を送って、そこにいろいろ詰めて送り返してもらうんです。その時はインドのアーティストへ箱を船便で送って、その箱にいろいろ詰めてもらって送り返してもらったんです。合計で半年くらいかかるプロジェクトでした。
矢津:そうですね。送る箱に我々がやっていることの説明書きを入れて、お礼の代わりに日本のお菓子とかを詰めて。あと使い捨てのカメラも一緒に送って、好きなように写真を撮影してもらうんです。それも一緒に送り返してもらっています。
矢津:山田も僕もお店をやっているんです。「お店アーティスト」みたいな感覚で、お店というプロジェクトとしてやってみようというのがいいなと思って。
矢津:そうですね。副産物産店という活動そのものが作品という感じです。アート作品を販売してもあまり売れなくて、プロダクトとして落とし込む。こういう仕組みを含めて作品っぽく見せたい。お店の形態であったり、販売方法ということを含めて作品としてやっています。
矢津:アーティストというより、子どもの頃からずっと絵を描いていたんです。最初の入り口は漫画でした。漫画を描くのが大好きだったんです。子どもの頃は「幽☆遊☆白書」とか少年ジャンプが大好きで。漫画を描いては弟に見せる、ということをやっている小学生でした。あと「まじかる☆タルるートくん」が好きだったので魔法の漫画を描いていました。中高になって陸上部に入ったんです。その時も落書き程度には描いていて。同じ陸上部の先輩が芸大を受験するって聞いて、すごいな!って思ったんです。そして彼のデッサンを見せてもらったら、ぜんぜん上手くなくて…。こんな人が芸大に入れるんだったら、俺だっていける!って思ったのがきっかけでした 笑。その時の美術の先生に芸大に入りたいことを相談して、美術部に混じって絵を描き始めました。そしたらみんなから上手いやん、なんて踊らされて。そして結果的に京都市立芸大に入ったという感じです。
矢津:彫刻をやっていました。大きな作品を作ったり、グループで作品を作るようになって、映像を使ったミックスメディアでインスタレーションをやったり。卒業してもグループ活動をしていて、その頃にアーティストのヤノベケンジさんと出会って美術の世界に入った感じです。今でもヤノベさんにはお世話になっています。初めはアーティストとして活動していたんですが、それではやっぱりかなわないなって感じることが多く、自分自身がアーティストとして成り上がるのは難しいって思ったんです。自分にしかできないことはないかなと考えて、クマグスクというゲストハウスとアートの組み合わせたことをやってみたんです。アーティストなんですが、街に関わってみたり建物自体を運営しながら街中に機能を作っていくようなことをやってきました。
矢津:そこに気づき始めました。作品を発表しても誰に届いているのかわからないと感じる時期があったんです。展覧会が忙しくて、どんどん発表してまた次の展示みたいな。その間に誰がどうやって作品を見てくれて、そこで一体何が起きたんだろう?ってことを自分でもつかみきれなかったんです。作品を買ってくれた人がどんな人かもわからない。だけれど作品だけが生まれていく、みたいな状況に違和感を感じてしまって。人や街と一緒に、ここにアート作品を置いたらどんな人がどう集まって、何が起きるのか?みたいなことを考える時間の方が多くなったんです。作品を作って発表することが嫌いになったわけではなくて、そっちの方が自分には向いているなって思ったんです。
矢津:そうなんです。大学進学の時に京都に移りました。この街は僕にとっていいことしかないです。よく閉鎖的と言われますけれど、ぜんぜんそんなことない。芸大もたくさんあるのでいろいろなところから人も集まってくるしアーティストもたくさんいます。アーティストを職業として活動している人も多いんです。自治体としての規模もほどよい大きさで、ほどよく人の顔も見えますし。一人キーマンとつながると、どんどんコミュニティーが広がっていくところもいい。アート分野に限らず不動産屋だったり、企業や産業に関わっている人たち、伝統的な産業を受け継いだ人たちにも出会える。古くからやってきたことを新しい価値でやっていこうと思っている同世代の人たちもいっぱいいて、京都は僕にとってとても暮らしやすいです。
矢津:直近で言えば京都市立芸大の移転で、我々が考えてきた芸大の形というのが、実際に街中に移転するとどんなことが起こっていくのか?そこでまたどういう問題が生まれるのか?その中で僕たちがどう関わることができるのか?ということをとても意識しています。アーティストがその場所にたどり着いたとき、街がどう変化していくのかとても興味があります。移転した場所はこれまで開発されずに街の中でも取り残されたような場所でした。その歴史が変わろうとしていて、どうなっていくのか楽しみです。そして僕たちがその中でどう関わっていけるのか一番興味があります。
矢津:めちゃくちゃ面白い街にできる可能性があるんですよ。周りの知人たちがそこのプレイヤーになっていますし、一緒に関わって作っていけるんですからなかなかないチャンスなんです。京都駅から歩いて5分くらいの場所がアートの街に仕上がっていく。とにかく楽しみで仕方ないですね!
山田毅(只本屋)と矢津吉隆(kumagusuku)の二人が考案、物の価値やその可能性について考えるプロジェクト。アーティストから出る魅力的な廃材を副産物と呼び、回収、販売。アーティストの制作段階で生まれるそれら副産物にスポットを当てることで作品単体では見えてこなかった、アーティストの新たな魅力がわかるかもしれない。それら副産物を通して京都に多数ある芸大やアーティストのコミュニティーと連携し多種多様で京都らしい副産物産店を展開。