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Interview_06 :
UP DATE : 2022 / 08 / 24

すべてのスペックが80点以上なんですよね。

田中延和(スピニングガレージ代表)

INTRODUCTION

世界中で大ヒットし、日本でも“かぶと虫”の愛称で親しまれたフォルクスワーゲン「ビートル」。1974年、その後継車として小型ハッチバックのボディを身にまとった「ゴルフ」がデビュー。この新型車はすぐに大ヒットし、世界中のメーカーが「ゴルフ」を手本としてクルマ作りをするほどの名車となる。現在もその地位を維持しながら8代目のゴルフまで販売を続けている。その中でも2代目の通称「ゴルフ2」に魅了され、その専門店「スピニングガレージ」を24年間続けている田中さん。これまでに数千台の「ゴルフ2」を販売してきた。オープン当初は数年の型落ちだった「ゴルフ2」も今では30年前のクルマとなり、すっかり”古いゴルフ”となった。近年僕たちの想像を超えるスピードで進化する自動車技術の中で、同じ車種をずっと愛し続ける田中さんにとって大切な物ってなんだろうか?スピニングガレージのウェブサイトを覗いてみると「ゴルフ2」への愛情がとにかくすごい、そしてクルマに詳しくない人でも楽しんでもらいたいという気持ちで溢れ、みていて気持ちがいい。誰からも愛され、みんなが愛することができるのはこのクルマが大衆車であるということが大きいのではないかと思う。特別で普通な「ゴルフ2」を愛し続ける田中さんとのクルマ談義。

田中延和
田中延和

田中延和
(スピニングガレージ代表)

1999年にゴルフ2専門店スピニングガレージを設立。神奈川県相模原にある広大な敷地には常時100台前後の在庫があり、日本で唯一の専門店。

田中さんがお店を始めたきっかけはなんですか?

田中:お店を始める前からゴルフ2に乗っていたんですよね。最初はその見た目で欲しい!って思ったんです。まだ免許を取る前でした。そして免許取った92年が、ちょうどゴルフ2から3にモデルチェンジした年だったんです。しばらくして、ゴルフ2の中古車が手頃な値段になってきたタイミングで最初の1台を手に入れました。乗ってみるとやっぱり楽しかったですね。僕が店を始めたのが99年なんですが、その年はゴルフ4が現行だったんですよね。それにも試乗したのですが、ゴルフ4には乗らないだろうなって思って笑。それならもう最初からゴルフ2専門店をやろうって決めたんです。新しいのはやりません!っていう。笑。

スピニングガレージという店名はどうして付けたんですか?

田中:お店を始める前にDJをやっていたんです…。あっ、あと当時はサーキットでもよくスピンをしていたので…。そんな感じです笑。

初めからゴルフ2しか扱わない!というのはこの車種にどんな魅力を感じているのでしょうか?

田中:その質問をされる度、そのときに考えていることが違っているので、答えもバラバラなんですよね。

たぶん時代によってその魅力も変化しているのではないでしょうか?お店を始めたのが99年で、その当時ゴルフ2は7~8年落ちのクルマですよね。当時はまだ街でもたくさん走っていましたし。今ではもう30年も前の車種の専門店になっているわけですから。

田中:そうですね。さっきお話ししたように最初は見た目が好きだったんです。それで乗ってみると便利でクルマ全体のパッケージがとてもいいし、過不足なく走る感じも良かったんですよね。しかもサーキットに持っていけばちゃんと走れるし、ボディ剛性もしっかりある。スピードを出した分だけしっかりスピード感が身体に伝わってくるんです。現代のクルマはスピードメーターを見ないと、どのくらいの速度で走っているのかがわからないんです。高速、市街地、ワインディングを走っていても、人や荷物を載せても、燃費も、何をどう切り取っても優秀なんですよね。実用でも趣味のクルマとしてもすべてのスペックが80点以上なんですよ。見た目もそうですし、周りのウケも。仕事柄いろいろなクルマに乗るんですけれど、100点の部分があるクルマだとしてもどこか足りないところをみつけてしまうとやっぱりゴルフ2がいいなー、ってなっちゃうんですよね笑。どこへ行っても「ゴルフ2いいですね!」って言われるんです。僕も「なぜかいいんですよ、だからずっと乗っているんですよ!」って答えています。ゴルフ2の教祖みたいな感じに言われることもあって、ゴルフ2原理主義的な感覚の人かな?って思われることもあるんですけど、僕が店を始めたのが24歳の時で、その頃はそんなに深く考えていなかったんですよね。

実際に田中さんにお会いしても、ウェブサイトを見させてもらってもゴルフ2に詳しくない人でも気軽に相談できそうで、敷居はそれほど高くない感じがいいなと思いました。新車当時は人気車種でたくさんの台数が販売されたと思うのですが、今でも生存している台数は多いんですか?

田中:当時の販売数が多かったので生き残っている台数も他の車種と比べて多いと思います。始めたときは台数が減って続かなくなった時には転職すればいいや、って気軽に考えていたんですけれどね。実際こうやって続けていると、その時代なりの文脈でゴルフ2をやっている意味が増えてきたんです。いまだに食っていけなくなったら違う仕事をしようと割り切ってはいるのですが、でもどうしてもダメになるまではこの仕事を全うしたいと思っているので、それをどうしたらできるんだろう?ということを真剣に考えています。ゴルフ2以外の車種を扱うことも考えたりするのですが、扱いたいと思える車種がいまだに見つからないまま20年以上経ってしまいました。

先ほども少しお話しましたが、お店をオープンさせて24年。始めたときは新しいクルマで7年落ちだったわけですよね?今だと30年落ちじゃないですか?その間に見えてきた魅力とか変わったことってありますか?

田中:24年の間で、他のクルマはなくなってしまった車種が多いのにこのクルマはいまだに乗り続けられているということですかね。時間が証明してくれたって事が大きいですね。発売当時からゴルフ2は頑丈とか錆びないとか言われていたんですけれど、こうやって30年経って本当にそうだったんだなって思っています。

24年間やられていて苦労したことは何ですか?

田中:何だろう?お金の苦労以外思い出せないなー笑。あっ、部品が手に入りにくくなったということはありますね。メーカーが一度に生産する部品のロット数が少なくなっているんですよ。少なくなるとその分値段も上がります。生産した在庫がなくなると欠品がしばらく続くんです。そして何年か経つとまた再生産されるんですが、その前よりも生産数が少なくなるので、部品の価格が上がるんです。欠品が長続きするときは直接部品メーカーにお願いして作ってもらうこともあるのですが、その場合すごくコストがかかってしまいます。それでも全体的に生存しているクルマのタマ数が多いですから他の車種に比べても部品が手に入りやすいですよ。

いま困っているパーツはありますか?

田中:大物のゴム系のパーツですね。ルーフのモールだったりバンパーだったり。大きい部品は扱いも大変ですし、利益率の良くない部品だからかも知れませんね。

中古パーツを再利用して使うこともありますか?

田中:今はできるだけ使わないようにしているんです。昔はそれをエコだと思ってやっていたんですが、やっぱり使い古されたパーツなので、再利用してもいつ壊れるのかわからない。今は新しいパーツに交換する方がいいのではないかなと思っています。と同時に、壊れる前に予防整備で新品にガンガン交換していきましょう、というのも奨め過ぎないようにしています。使える部品は使えなくなるまで使いましょうというスタンスです。最新の車のパーツってスマホみたいになってきているんですよね。壊れたらまるごと交換という感じ。手間やコストを考えるとまるごと交換する方が楽なんですよ。でもそれはぜんぜんエコではない。そもそも車は機械なんだから、故障したら修理すればいいんじゃないかなって思うんです。僕たちは古い機械が好きで乗っているので、経済的非効率という話より物を大切にしようよ!って思うんです。あと全体的な話になりますが、車種を長生きさせるためにはメーカーに新品パーツの生産をいかに長く続けてもらうかが大事だと思っています。中古パーツの需要って、だいたいみんな新品が作られなくなった同じ部品に偏るんです。そこを新品で作り続けてもらうために、新品パーツをしっかり使って需要をメーカーにアピールする方がいいんじゃないかなって思っています。これまで消滅してしまった車種って中古パーツの取り合いが大きな原因だったと思うんです。共食いで。僕も創業してから10年くらいまではクルマを部品取り用の車として解体していましたけれど、今はなるべくしないようにしているんです。中古パーツの為に車体を一台解体してしまうとゴルフ2の数が1台減ってしまいますし、新品パーツを作り続けてもらうチャンスも失います。事故ってしまったとか、錆だらけでどうしても使えないとか、クルマとして走らせることが難しいと判断した車両だけ部品取り用として使っています。

では古い車体も復活させて乗れるようにしているのですか?

田中:そうですね、復活の可能性が見えるクルマはしっかり直して乗れるようにしています。ゴルフ2のタマ数をなるべく減らさないことがウチの店の仕事だと思ってやっています。

今までに何台くらいのクルマを販売してきましたか?

田中:延べ2000台くらいですね。年間に100台くらい販売していた時期もありましたが、今は50台くらいです。整備と車検で年間200台くらい。管理登録のあるお客さんで1000台くらいです。あとはウェブショップとかでおつきあいのあるお客さんが地方にいらっしゃいます。創業当時からのお客さんや、新車から乗っている方とか2桁ナンバーの時代から乗られている方も。当時から通ってくださっているお客さんのお子さんがそのクルマを引き継いで乗っていらっしゃる方とかも。そういうのを見ているのが楽しいんですよ。普通の人が7年ローンを組んで新車を買っていたら3回転、4回転くらいしている年月ですね。その期間1台をずっと修理しながら乗り続けているって、こう振り返ると正解でもあるなと思うんです。

そうですね、何台も乗り換えるよりも直しながら長く乗る方が地球の負担も少ないですし、経済的にも有利かもしれないですね。

田中:まわりの人からクルマにお金かけて無駄遣いって言われ続けて、でも20年乗り続けて振り返ってみると何台も乗り換えるよりいいお金の使い方になっていたな、って言われるお客さんもいらっしゃいます。当時は風当たりも強かったけど、今になると証明されているって。

今、内燃機関だったクルマがすごい勢いで電気に移行しようとしています。ディーゼルも内燃機関ですが、ハイブリッド、水素燃料電池など選択肢も増えていますよね。最終的には完全なEVに変わっていくのだと思いますがこの流れについてどう思いますか?

田中:まずEVシフトは原則おこなわれると思いますが、今の勢い一辺倒ではいかないと思います。国やメーカーが10年以内にガソリン車を作らないとか禁止とか言ってますけれど、その通りになるのかは疑問ですね。例えばすべてのクルマがEVになった時、発電量が足りなくなるのは明らかなので。それでまた原発増やすのか?という話しになりますし、それって時代を逆行しているように見えますよね。

結局電気を作るのにもいろいろ燃やしたりしないといけませんしね。

田中:一辺倒って弊害を生むので、いろいろな選択肢があるのが良いと思います。トヨタの水素エンジンって良いなと思っています。たぶんクルマのライフスタイルというのもより細分化されていくと思うんですよね。その細分化されたスタイルの中の一つとしてウチはゴルフ2を残せていけたらいいなと思っています。いまゴルフ2に乗ってもらっているお客さんにはこれからも末永く乗っていただきたいと思っていますし、自分もどう生き残っていくのかを考えています。ゴルフ2は、自分が考えるサステナブルなライフスタイルと、それなりの経済合理性が両立できてバランスの取れる車種だと思うんです。それをどこまでやれるかはこれからの僕自身の課題だと思っています。

田中さんみたいな考えの人がいろいろなジャンルにいたらいいですね。

田中:いると思いますよ!他の似たような商売をされている方に会うと同じような話しになることが多いですよ。1000人~2000人くらいのお客さんたちの役に立ててなんとなく食っていけたら良いなと思っている商売なので。

それぞれの役割があってその一つを田中さんがやっている。良いなと思います。お店にはどんなお客さんがいらっしゃいますか?

田中:クルマ命!みたいな方は意外と少ないですね。年代ですと最近は20代、30代のお客さんが多いです。同い年くらいのクルマを探している、と言われる方が多いんですよね。それくらいの年代の人たちがいざクルマを買おうと探すけれど、欲しいと思えるクルマがない!って口を揃えて言われます。一昔前の時代は旧車に関する情報も少なかったですが、今の比較的若い世代の人たちはその情報の取り方も上手だと思います。僕たち40歳代より上になってくるとネットにあるネガティブな情報に惑わされる人が多いのに。経験値が少ないはずの若い人の方が理解度が深かったりするんです。十分に下調べしてきたので買います!って飛び込んでくるのは若いお客さんですね。あと新車当時から乗られているお客さんはしっかり振り切れちゃっている人ばかりなので笑。人生最後のクルマと思って修理してる、なんていう人もいらっしゃいます。

これからの夢や計画していることはありますか?

田中:もうすぐ25年なんですよ。あとこのコロナ禍で世の中が大きく変わるなって思っていたので、ここ2年くらいは、趣味のビールを飲んでいてもそんなことをいろいろと考えてしまいます。前までは自分が好きな車種で自分が引退するまで仕事できたらそれでいいかなって思っていたんですけれど、今の市場やクルマの現状を見てみると、僕が引退してもかなりの数のゴルフ2が残っていることになると思うんです。これまでは自分が引退するまでと思っていたのを、もう少し真面目に長いスパンで考えないといけないって思っています。会社が小さくなっても、大きくなってもいいように。誰かが継いでくれてもいいし、継いでもらえなかったらどういうスタイルで続けてもらえるか?とかの選択肢を考えておこうとか。そういうことがここ1、2年の晩酌での重要テーマになっていますね。クルマの在庫データとか決算書とか見ながら飲んでます!

いまお店では何名くらいの人が働いていますか?

田中:今は10人くらいが働いています。そのうちメカニックが5人です。部品担当が2名。探したり管理したりウェブショップで販売したりするだけで2人いるんです。販売の専任担当というのはいないんですがいつも一人分くらいの業務量があります。変な話なんですが、一人が選任で作業すると、子どもの運動会があるので会社休みますってなったとき、仕事が休めなくなっちゃうんですよね。なのでみんなが休めるように全員の業務をかぶせているんです。一生この仕事でやっていこうと思うと、子どもの行事で休めるか?って、めちゃくちゃ大事なんですよね。

田中延和

田中延和(スピニングガレージ代表)

1999年にゴルフ2専門店スピニングガレージを設立。免許を取得する以前からゴルフ2が好きだった。神奈川県相模原にある広大な敷地には常時100台前後の在庫があり、日本で唯一の専門店。どこかアメリカの田舎にあるクルマ屋のよう。販売、整備、車検カスタムなどどんなことでも相談できる。