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JOURNAL

Interview_03 :
UP DATE : 2020 / 10 / 07

すべてが大切な服たち、
手放すことはないですね。

原田学(スタイリスト)

INTRODUCTION

街中や仕事の現場で原田さんをみつけるのは簡単。いつどこでお会いしても変わらない、派手で独特なファッション姿だから。乗っているクルマも自転車だって原田スタイルを貫いている。会うとついつい「どこでみつけてきたんですか?」と身につけている服について聞いてしまう。そしてその質問に答えてくれる原田さんとの会話がいつも楽しいのだ。その独特なアウトフィットは原田さんのスタイルとして定着している。大好きな古着屋さんを歩きまわってみつけてきた物や、作り上げたスタイルを、スタイリストという仕事に落とし込んでいる姿はとても腑に落ちる。古着に対する人並み以上の愛は、衣装部屋として借りているアパートの一室を見ればよくわかる。入ると古着屋さんのような独特な匂いがする。本人もどのくらいあるのかわからないというくらい、足の踏み場もないほど大量の古着が並んでいるけれど、どこに何があるのかは把握しているという。ひとつひとつ大切にされている服たちに、捨てられる物はひとつもない。すべてが必要とされているとても幸せな服たちなのだ。

原田学
原田学

原田学
(スタイリスト)

1972年 京都市生まれ。スタイリスト。ビンテージやアンティークに造詣が深く、それらを取り入れたスタイリングで雑誌や広告を手掛ける。ファッション業界人にファンも多い。20年以上にわたり活動している。

原田さんは京都出身だと聞きました。洋服に興味を持つようになったのは京都に住んでいる時からですか?

原田:洋服に興味を持つようになったのも京都に住んでいるときでした。小学生の高学年くらいの頃から好きです。その時はアメカジっぽいものが好きだったと思います。フルーツ・オブ・ザ・ルームやディスカスのスウェットとかを扱っているインポートのお店が多かったんですよね。そのあとにビームスとかシップスのようなセレクトショップが京都にもできはじめたんです。中学生になるととりあえず大阪と神戸に買い物に行くようになったんです。京都よりたくさんの物があったので。とにかくたくさんのお店を回りたくて、週末になると必ず大阪、神戸に通っていました。

洋服が好きになるきっかけというのはどんなことでしたか?アメカジだとアメリカの映画とか?

原田:そういう感じでもなかったんです。僕の場合は雑誌でしたね、「ポパイ」や「ホットドックプレス」とかを片っ端から見ていましたね。コレ欲しい!こんな店ができたんだ!って。中学生の時は部活と洋服にしか興味がなかったです。部活はバスケ部でした。「今日の部活が昼までだから急いで帰れば大阪に行けるな」みたいな感じでした。そんなときは梅田や難波に行ってました。休みの日になると神戸まで足を伸ばして。京都ですと、新京極、寺町あとは木屋町あたりですね。でも大阪の方が圧倒的に多かったです。東京に越してからも、京都に帰ると2-3日は大阪、神戸の服屋巡りの日程を組んで帰省します。また東京に帰るときももわざわざ神戸に寄って戻ったり、逆方面なんですけれどね 笑。とにかく店を回るのが好きなんです。当時はお金もないのでお店を見てまわるだけなんですけれどね。こんなのが入荷してる!とか言いながら。

東京に越してきた理由も洋服ですか?

原田:そうではなかったんです。はっきりした理由があったわけではなかったんですが。東京に越してきてから「さて、何しよう?」って感じでした。そのあとに実はお笑いの芸人をやっていたんです。数年間だけだったんですが。それからあるタレントさんに可愛がってもらって、その人の”坊や”になったんですよ。いわゆる”付き人”ですね。坊やをしながらその合間に洋服屋でバイトもしていました。まわりには古着が好きな友だちもたくさんいました。90年代の中頃、ちょうど古着がブームでした。僕もその頃から本格的に古着を覚えたんです。あるとき付いていたタレントさんに頼まれて衣装を用意することになったんです。その頃にはブランドから古着まで、まわりにはたくさんのアパレル関係の友だちがいたので僕にとって服を借りるのは難しいことではなかったんです。それから少しずつスタイリストのような仕事が増え始めたんです。

古着が好きなったのもその頃からなんですね。

原田:タレントの坊やを辞めてスタイリストになろうって思ったんです。誰のアシスタントにもならずに始めたのではじめは仕事がなかったんですよね。芸能関係で知り合いだった人が雑誌の仕事をやっていて、その人からスタイリングの仕事を頼まれるようになりました。僕もその頃に古着が好きだったピークで、ちょうどその雑誌とも相性も良かったんです。他の人と比べて僕が古着を好きになるのが遅かったんです。でもそれが逆に良かったのかもしれません。僕が好きになる前の古着のブームってジーンズ、スウェット、スニーカーで。さらにその前のブームは50’sやミリタリーだったんです。そのあたりのジャンルはその時すでに成立していて。僕がこれから始めても勝負にはならないなって思ったんです。それなら違うことをしようと。
2000年までの古着のジャンルの幅ってそれほど広くなかったんです。ここ10年、15年で流行になった古着って、2000年以前だったら誰も注目していない物ばかりでした。例えばワークウェアとかですかね。カバーオールなんてほとんど注目されていませんでした。関東圏で古着のカバーオールを探している人は数人くらいしかいませんでした。90年代は数千円で買うことができたんです。取り合いをするのもその数人で。いろいろなメディアが取り上げるようになったら急にブームになったんです。今では世界的に値段が上がってしまって高い物だと数十万、数百万という物もあるくらい。革靴もそうなんですよね。50’sが好きな人の間でいくつか人気のモデルがあってそれは高かったんですが、それ以外のストレートチップやプレーンの革靴は安かった。というか誰も取り扱っていませんでした。今ですと30年代40年代の物で5万円くらいします。すごく高値がつくものはないのですが、市場に物がなくなりましたね。収集家もたくさんいるんです。眼鏡やサングラスもそうですね。古着屋で古い眼鏡を持ってきて何十年代のアメリカン・オプティカルです。なんて言う店は一部ビンテージを扱っている眼鏡屋さん以外でありませんでした。

そうなんですね、原田さんは私生活でもいつも独特な格好をしていますよね。

原田:独特ですかね?笑。でもあまり流行っている物とかは買わないですね。スニーカーを買うときも派手な色の物をついつい買っちゃうかな。あるとき紫のスニーカーが欲しいと思うと紫のばかり買ってしまったり。スウェットが流行っている頃にウェスタンシャツばかり買っていたんです。例えば太いパンツが流行るとスリムな物を試したくなる。みんながスリムを履きだすとこんどはフレアパンツを買ってみようかな?って感じです。流行っていないから安く手に入るんです。今のうちに全部買って試しちゃおうって。利にかなっているんです。人気がないからたくさんあって選び放題。誰ともかぶることもない。なのでいつも流行らないでくれ、って思っています。笑。それが流行ってしまうと封印してしまうんですよ。
私生活でも仕事でもそれは同じです。そういう物ばかり買っているから、逆にスタンダードな物が買えないんですよ。古着の定番、リーバイス501のXXも一本しか持っていません。そのXXもちょっと変わったものなんです。センタープリーツが入っているんですよ。その当時の人が正装をするためにXXにセンタープリーツを入れたんでしょうね。501でも66モデルとか、あとラングラーとかなら見たことあったんですが。XXだと、やばい!こんなのある!ってさすがに買ってしまったんです。センタープリーツが入っていたので逆にそれほど高くなくて。笑。僕はプリーツが入っているから欲しかったんですけれど。例えばリーバイスのイベントとかがあるときに穿いていこうと思うのですが、結局穿けないんですよね。僕にはいくつかそういう物があるんです。白いスニーカーも履けないんです。僕には似合わないんですよ。高校生の時履いたことあるんです。それにボーダーのTシャツを着て遠足に出かけたんですけれど、その日ずっといやだったんです。その記憶がずっと残っているんです。白い服はほとんど買わないです。育ちが悪いんですよ。ブルーカラーなんです。笑。

原田さんといえばやっぱり古着のイメージですが、古着の魅力とは?

原田:これは新品でも同じだと思うのですが、お店に行ったとき、新しい物をみつけて、それがいいなって思ったときに物欲って生まれると思うんです。なのでそれを取り扱うお店もそういう新しい物を知ってももらうということを仕掛けないといけないんです。その物のビジュアルもそうですし、生い立ちとかもそう。僕もそうですがそれを見てくれる人に対して新しい物を知ってもらう、という仕掛けをすることは面白いですし、それを知った人がさらに洋服に興味を持ってくれるのが嬉しいんです。次の展開を常に見ていないといけないと商売にもなりませんし。僕も常に新しいものを探しています。そう思っているからお店に行くのが楽しいんです。
日本人のバイヤーの人たちもそういうことを良く熟知していて良いお店がたくさんあるんです。日本の古着の人たちは世界的に見てもレベルは一番だと思います。古着屋さんもそういうところがないと継続していけないって思うんですよね。本当に洋服が好きなお客さんたちってそのお店の信念というか、面白い物を追求していく姿を見ていると思うんです。流行だけを追いかけたら続かないはずです。アレを試したり、コレをやってみたりして新しいスタイルや作る物が生まれるんじゃないかな。お客さんがそれを見たときに「なんかかわいい!」って思うんです。僕も仕事柄100軒、200軒とお店を見てまわっているので。お店でたくさんのことを学ばせてもらっています。古着屋さんのおかげで古着が好きなんですよね。

古着って洋服のリサイクルですが、サスティナブルについて考えたことはありますか?

原田:古着だからサスティナブルだとかあまり考えたことはないのですが、長く着られる物を選ぶこととかは意識しています。もちろん新しい服でもそうです。作る側も長く着てもらいたいと思って気持ちを込めて作っていれば、買う側も同じレベルでそれを使えるんです。何年も大切に着てもらえることが大事。流行だけで、好きでもない服を作って販売しているとおかしなことがおきてしまうんですよね。僕もたくさんの服が買いたいとは思っていません。欲しいなって思った物だけを買っているんです。スタイリングの仕事でコレがあったらいいなって思うと買ってしまうこともあります。その仕事が1年先だったとしても。デザインソースとしても、面白いから買っておこうとか。僕はデザイナーでもブランドをやっているわけでもないんですけれど。笑。こんなデザイン他では見たことないからいつか使えるなって買っておくんです。必ず何かの時に役立ちますから。あとであのときアレを買っておけば良かったな、って後悔するのがいやなんです。仕事でモデルに着させてそれが絵になったとき、買っておいて良かった!って。それが気持ち良いんです。こんな服だらけの状態で言えないんですが、それでも欲しい物だけしかないんですよね。よくフリーマーケットに誘われるんですけれど、売れる物がないんですよ。どれも手放したくないものばかりで。着ていなくてもまた着るものばかりなんです。

ここには何着くらいあるんですか?

原田:わからないです!でも何かの撮影で靴を100足集める依頼があって。100足も大変だなって思いながらとりあえず家族の靴を集めてみたらそれだけで100足以上ありました。自分でもびっくりしました。それに革靴もありますし。押し入れにデッドストックのアディダスのスニーカーも眠っていますから。

ご自身でリメイクもしているんですね?

原田:なんでもしますよ。決して上手ではないのですが。ないものがあると自分で作るしかないですから。自分で作れば理想的な物ができるので。予算がないと言われると、それなら自分で作っちゃえってなるんです。諦められないんですよね。

原田さんが携わっている「THE SUKIMONO BOOK」について聞かせてください。

原田:ちょっと変わった本なのですが、シリーズの中で9冊携わっています。中古のバックパックやデニムとかスウェットとかを取り上げている本なんです。僕が好きなジャンルや物を紹介しているのですが、完全に僕の目線で選んだものなんです。珍しいとか高価なものではなくて、見方を変えたら古着もまだまだ面白いものがたくさんあるよ。ということを伝える本なんです。なのでヴィンテージコレクターの人向けという感じではないんです。例えばデニムの企画でもその種類を紹介するというより、デニムのジャンルってとても幅が広くて、デニムのウェスタンジャケットがあったり、Gジャンだけれどいろいろなカラーがあったり、加工もケミカルがあるとか。デニムと一言でいってもすごいたくさんの種類があるんです。例えばデザイナーの人たちがデニムを使うときにこの本を見てなにかのヒントになるならいいなと思って。それぞれのシリーズにそういった想いを詰め込んで作っています。

『THE SUKIMONO BOOK 01 BACKPACK』(Mo-Green)

原田さんらしい本ですね。新しいシリーズを出版する予定はありますか?

原田:あるんですが、時代的にできなくなっているものもあるんです。本を作るために撮りためるのがいやなんです。そのとき実際にお店にあるもので、買えないと成立しない本なんです。僕の本はコレクター本ではなくて、本を見て、発見して、実際にお店をまわってもらって手に取ってもらいたい。そういう本なんですよね。

なるほど、原田さんがいつもやっているような古着屋さん周りにつながるきっかけの本でもあるんですね。そういえば原田さんが仕事で使っているクルマも独特ですよね。

原田:僕のクルマはボディがウッド調なんですよ。今乗っているクルマはトヨタのマークXジオというクルマで。これまでにオデッセイ、ステージア、レガシーと歴代乗ってきたクルマもボディにウッド調のシートを貼って乗っていました。実用的なクルマがいいなって思ってから、でも普通に乗るのはつまらないなって思って、それならウッド調にして乗ったら楽しいんじゃないかなってやってみたんです。そしたらそれが気に入ったんです。それから車種がどうでも良くなっちゃって。ウッドの貼りやすさでクルマを選ぶようになりました。街中を走っていてもあのクルマ、ウッドが貼りやすそう!かっこいい! なんて思ってしまうくらい。新しく買うときは白と黒以外の色で探しています。シルバーだと少し悩みますね 笑。メチャクチャ高級車でなくて良いんですが、いつか名前のある良いクルマを買ってウッド調にしたいですね。マセラティとかにウッド貼って、みんなに突っこまれたいですね。今のクルマも娘に手伝ってもらって貼りました。

お子さんも大きくなって思い出しますね。「お父さんいつもクルマに変なウッド貼っていたな。毎回貼るの手伝わされたな」って。

原田:そうですよね、この前貼ったときも「お父さん、貼らないで」って言われましたら。絶対に忘れないですよね。

笑、いいですね。これからの夢ってありますか?

原田:良いクルマにウッドを貼ってみたい。あとは今までのように古着屋さんを回って仕事ができたら楽しいですね。良いお店はなくなって欲しくないですね。

原田学

原田学(スタイリスト)

1972年 京都市生まれ。スタイリスト。ビンテージやアンティークに造詣が深く、それらを取り入れたスタイリングで雑誌や広告を手掛ける。ファッション業界人にファンも多い。20年以上にわたり活動している。
自身の感覚を全面にだしたビンテージアイテム紹介本「THE SUKIMONO BOOK」(Mo-Green)は10冊リリースされている。

Photo / Taro Hirano Text / Taku Takemura